伊坂幸太郎『モダンタイムス』を読みました。
システムエンジニアの渡辺が引き継いだ仕事は、
出会い系サイトの仕様変更だったのだが、
調べる内に関係者が次々と不審死や行方不明となっていた。
暴力的な妻に怯える渡辺も、巻き込まれて行く。
「検索」が「監視」を生むという現代の恐怖を、
16年前に小説にしている伊坂幸太郎って凄いなと思いました。
渡辺の浮気を疑い拷問屋を雇う妻佳代子。
その拷問屋(後に仲間になる)。
友人で好色な作家「伊坂好太郎」。
同僚の「大石倉之助」。
「人間だもの」と噓ぶく先輩五反田。
等など、登場人物がみな魅力的です。
ユーモアを散りばめながらも、
「だいたい、正義とか良識って、ちょっと怖いですよね」とか、
「国家は国民に怒られない低度に、国民を守るような素振りを見せているだけだ」、
「利益を生むものは進化する。人のためになるからじゃない、利益が出るからだ」、
など、ドキッとするセリフが随所に溢れます。
ニュースやネットの情報にも、
「人の興味は、それが真実かどうかということよりも、面白いかどうかということに反応する。真実らしければ、いい」と断言させます。
そして、
「政治も経済も、人の気分や善悪も全部、大きなシステムに乗っているだけだけだ」、
「社会ってのは、システムを構築していく」「そのほうが楽だからな」。
「システムにとって厄介なのは『例外』だよ。」と伊坂好太郎に言わせます。
巨大なシステムに対しては、
「何をやっても同じ」という「虚無」に辿り着く一同でしたが、
創り上げられた英雄で政治家になった永嶋が、
『そういう事になっている』と自分に言い聞かせていたにも関わらず、
渡辺の「小さなことのために動くんだ」という言葉に翻意する場面も感動的でした。
世界を変えようとしていた作家「伊坂好太郎」の、
「小説で世界なんて変えられねえ。ただ、一人くらいに、届くかもしれねえ」
と残した言葉が、心に滲みました。